賽は投げられた
(3)
「あ・・・綾崎!」
虎鉄が再びハヤテの前に姿を現したのは、それからしばらく後のこと。
「何ですか、虎鉄さん」
あの時と同じ、青空の下。けれど今度は逃げなかった。一応、酷いことを云った自覚はあったから。
だから、ハヤテは何も云わず、ただぶつけられるべき言葉を待っていた。
「綾崎・・・私はずっと考えていたんだが・・・」
どんな事を云われても、甘んじて受けようと、そう思っていた。
けれど。
「その、私は・・・やはり、お前が金で自分を売るような奴だとは思えない」
ハヤテは、目を見開いた。何を云われているのか、また解らなくなる。
らしくもなく、心臓が早鐘を打っているのが解る。一歩踏み出されて思わずあとずさろうとするが、一瞬早く手首を捉えられてそれは叶わなかった。
「っ・・・!」
怖い。何を考えているのかが解らない。解らない事が何よりも怖い。
こんな腕くらい、簡単に振り解けるのに。そうできない自分が一番解らない。
怖い。逃げたい。なのになぜ。
「聞いてくれ、綾崎」
自分のような人間が、今更何を期待しているのか。
「私は・・・」
虎鉄の真剣な瞳が、混乱して惑うハヤテの瞳を捉えた。
「金でお前が手に入るならそれでもいい!お前を一生私のモノにするには幾ら必要だ!!教えてくれ綾崎いぃぃぃぃぃ!!!」
ごす。
身長差はテクでカバーするとばかりに繰り出された掌底に顎を直撃され、今度こそ虎鉄は芝生に沈んだ。
(ああもう・・・やっぱりこういう人だよこの人は・・・)
なんだか、真面目に考えた自分がバカみたいだ。
と、同時に、何を一体悩んでいたのかとも思う。
大きなため息と共にしゃがみ込んだハヤテの肩が微かに震えているのを見て、虎鉄は倒れ込んだ体勢のまま、恐る恐るその顔を覗き込み。
「・・・あ、綾崎?」
─ 意外そうな顔がおかしい。
(どこまでも失礼な人。僕が笑ってるのがそんなに珍しいのかな)
ハヤテは堪えきれない笑みを残したまま、虎鉄の目を真っ直ぐに見据えて、云った。
「この前云った事、あれ嘘ですから」
そう云うや、素早く立ち上がり背を向ける。
瞬間、笑っちゃうくらい明るく変化した虎鉄の表情が、視界の端に飛び込んできて。
「あ、綾崎・・・!」
なんだか、もう一度意地悪を云いたくなった。
「─ 5万なんて、そんなに安い訳ありませんよね?」
「 ・・・って、おい!どっちが嘘なんだあぁぁぁぁぁぁ?!!」
青空の下、虎鉄の絶叫が響く。
虎鉄は知らない。背を向けたハヤテの顔が、今まで見せたことも無いような屈託のない笑顔を浮かべていることを。
その笑顔の理由が、自分だということを。
(ゴメンね虎鉄さん。意地悪はこれで最後にするから)
青年を置き去りにして、歩き出す少年の足取りはどこまでも軽い。
そして、賽は投げられた。
END
一応、ハヤテは虎鉄に対して恋愛感情ありません。ただ、基本的に他人からの好意をはねつけるという事に慣れてないので、フツーに友達だったらいいのにと思ってます。
ハヤテのパーソナリティを考える上で思う事は、サバイバル体質でどんなトコでも生きていけるよーなコが、なんで高校生になった時点であの親見捨てて出て行かなかったのか(学費だって自分で納めてたのに)。
きっと、自分が捨てられる事は考えても、自分から見捨てるなんてコトは想像もつかないんじゃないかと。(結局、捨てられるどころか売られちゃった訳ですが)
ホント、可哀想なくらい自分の居場所を渇望してるコなんだなぁと思うわけですよ。帝爺の時しかり、執事ロボの時しかり。
で、お金のためってのもあるけど、むしろ一時の温もりと引換えに・・・って、 どっちかてーと女の子にありがちなパターンなんじゃないかと思いますが、まぁハヤテ半分ヒロインですしネ。(ネて)
や、まぁホントに体売ってたとは思ってませんが(当り前だ)、しかし時々見せる退廃的な色気にはドッキリします。「ギルの笛」回の表紙とか、11巻の初回特典しおりとか。誰を誘っているんだお前は。
とりあえず、ハヤテにはスライディングで土下座。ついカッとなってやったんだ。でも後悔はしていない。(←笑)
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