ゼロ地点
[ point-zero ]


(ending)


すっかり日も暮れた帰り道。真っ暗な中を、街灯だけを頼りに俺たちは歩いていた。
独りで少し先を行く高嶺と、遅れて付いて行く俺とガッシュ。俺とガッシュを仲良くさせようという配慮らしいが、こんな短絡的な発想しかできない奴は本当に天才なんだろーかと少し心配になる。
でもまぁ、せっかくの高嶺の心遣いだ。無駄にするのもなんか悪いしな。
ちらっと、隣(のかなり下の方)にいるガッシュを見る。
どう見ても日本人ではないこの子供は、イギリスに行っている父親の関係で預かっているのだと聞いた事があるが、それ以上の事は何も知らない。幼稚園に行く歳ではなさそうだが、小学校に行っている様子もないし、何もかもが謎な存在だ。
この子供が現れてから、高嶺は学校に来るようになった。けれどそれと共になぜか「怪我で」休む日が多くなり、その度に奴は何かを得たような顔をして学校に戻ってくる。
俺たちの知らない間に何が起こっているのかは知らないが、その全てにガッシュが関わっている事だけは確かだろう。
「なあ、ガッシュ・・・」
小声で話しかけると、はるか下の方から金色の子供が見上げてきた。
「アイツの寝不足の原因、お前なんだろ?」
高嶺に口止めされていたが、構わなかった。ガッシュはこくりと頷くと、
「もう3日、ろくに寝ておらぬ」
と、ぽつりと云った。
「なんでまた・・・」
「私のため・・・いや、私のせいだ。私に力が無いせいで、清麿はいつもその身を犠牲にする」
わずかに眉間に皺を寄せるその顔は、とても6歳やそこらのガキの顔じゃなかった。背後に守る「何か」のある男の顔だ。
その顔を眺めながら、俺は漠然とした不安を感じていた。
高嶺は意識しているかどうか知らないが、奴の、ガッシュに対する態度はまるで母親のそれだ。保護するつもりで依存している。
けれど、ガッシュが全ての始まりだと云うのなら。
ガッシュがいなくなった時、高嶺はどうなるんだろう?
また以前の高嶺に戻るとは思わない。ただ、漠然と思うのだ。
アイツはこの子供のために、いつか全てを─そう、友達も未来も、そして命すらも投げ出して、全てをゼロに戻しちまうんじゃないかと。
そのためだけに、アイツは俺たちのいる「こちら側」に戻ってきたんじゃないかと。
そんなバカげた、けれど否定しきれない不安がどこかにあるのだ。
俺は、小さな金色の頭を見ながら思う。
なぁ、アイツを変えたのは確かにお前かもしれない。けど、アイツはお前だけのものじゃねーんだ。俺たちにとってももう、大事な友達なんだよ。だから、頼む。─頼むから。
(アイツを、俺たちから奪わないでくれ)
そんな言葉が口を衝いて出そうになって、俺は唾を飲み込んだ。
バカげてる。あまりにも身勝手で、脈絡も何もあったもんじゃない・・・。
気がつけばじっとりと汗をかいている手のひらを見つめていると、
「案ずるな、山中」
凛とした声に、俺はそちらを見返した。
いつの間にか、金色の大きな眼がこちらを見ていた。
「清麿を守りたいのは私も同じだ」
ニッと、猫が眼を細めるみたいな笑いが、なぜかえらく頼もしいもののように思えて。
「ああ・・・守れよ」
約束する。そう云って奴は小さな拳を突き出してきて、俺はそいつに自分の拳をぶつけた。
「内緒話、終わったか?」
振り返る高嶺の顔は、やっぱり母親みたいで、俺は何となく笑ってしまう。
ガッシュはワンコロみたいに跳ね上がると、高嶺の背中に抱きついた。





それからしばらく経って、高嶺はまた学校を休みだした。父親の遺跡発掘に付き合ってどーたらとかいう名目は、俺にとっちゃどーでも良かった。
(ガッシュがいるんだからなんとかなるだろ)
今回はえらく長い。奴のいない窓際の席は、なんだか妙に寂しくて、水野なんかはそっちをみては半ベソをかいている。

けれど、アイツは約束したんだ。・・・必ず守ると。

俺の手の甲にはまだ、小さいけどしっかりした拳の感覚が残っている。


俺はショボくれている水野を励ますべく、席を立った。








| あとがき |
デボロ遺跡での決戦数日前のお話。この日の夜、ナゾナゾ博士からの
手紙とチケットを受け取る設定です。

山中くんがせーしゅんしていて若干ハズカティーです。
(スミマセン、一番恥ずかしいのは書いた私です)
山中くんがサカっててスミマセン。彼の清麿に対する気持ちは
友達以上だけど愛情未満です。若いから。色々と。(何が)
実際の山中くんは、こんな色々考えてないと思いますが、まあ
ナレーション効果ということでひとつ。

あと、保健室。私、前ジャンルの小説でも保健室ネタを書いてたのを
書き終えてから思い出しました。私の原風景か何かなのでしょうか。(単に好きなだけ)

ガッ清大前提の山→清。いかがでしたでしょうか?
よろしければ、ご意見・ご感想とか頂けますと嬉しいです。


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