アイズ・ワイド・シャット





(2)



(・・・ッ、速いな。やっぱり)
清麿は、瞬間移動のような敵の動きに、我知らず舌を打つ。
これまでも様々な姿の敵と戦ってきたが、今回のように、完璧な鳥型をした魔物の子は初めてだった。そして、大きな白いオウムにしか見えない彼(彼女?)の戦闘ステータスは、予想通りスピードが突出している。なにしろ、移動の軌跡すら見えないのだ。戦闘開始からしばらくは、ザケルはもちろんザケルガさえもかわされ、翻弄されるままに時間が過ぎた。
辛くも幸いだったのは、スピードに対して攻撃力がかなり低いという事。羽根を乱れ撃つその攻撃は、こちらをひるませるには充分だったが、ダメージを与える程には至らない。それは敵も自覚しているらしく、ひたすら持久戦に持ち込もうとする作戦を見抜き、清麿は直接本を狙う方策に変更した。
ラウザルクでパートナーに近づき、効力が切れたところでザケルかザケルガを放つ。これまでの戦闘から、より素早い移動をするには呪文の力を必要とすることが分かっていた。呪文の詠唱が終わる前に先手を打てば、ギリギリで魔物の子を出し抜ける。

重心を前に移し、力強く大地を蹴る。次の瞬間、ガッシュは敵の背後に周り込んでいた。今ならば背中はガラ空きだ。相手が一瞬ひるむのが気配で解ったが、清麿の作戦どおり、ガッシュはさらにその背後の、パートナーである少女の許へと向かった。
その意図を察した魔物の子が、翼を翻してガッシュを追う。だが、少女をかなり下がらせていたのがあだになった。ガッシュはもう本を見据えている。本が光り、少女が口を開く。ガッシュのまとう光が消える─
(間に合え!)
走り込みながら、清麿は叫んだ。
「ザケル!」
少女の短い悲鳴と共に、手にした本から緑の炎が上がった。

(終わった・・・)

魔物の子の姿が薄れ始め、清麿が安堵の息をつきかけた、その時。
「・・・・・・!」
少女が何かを叫んだ。
炎を上げながら、本が大きく光を放つ。
清麿は、その不吉な光の持つ意味を正確に理解し、未だ気絶から醒めないガッシュと、消えようとする魔物の間に身体を割り込ませる。
背中を切り裂くような激痛が走るのと、少女の口から迸ったのが新呪文だという事に思い当たったのは、ほぼ同時だった。


+++


意識は戻ったはずなのに、何が起こったかわからなかった。
いや、脳が理解を拒んだのかもしれない。

意識を取り戻したガッシュが観たもの─

消えゆく魔物の残した白い羽根。
燃えさかる本を捨て、勝ち誇った笑みを浮かべる少女。
そして自分をかばうように覆い被さり、うずくまっているのは。

「きよ・・・ま・・・・ろ・・・・?」

両肩に食い込むような重さを残し、ゆっくりと力を失ってゆくパートナーの背中越しに、白い鳥が眼を細めるのが見えた。

「・・・・清麿ッ!清麿、清麿ーーーーッ!!」

まるで、笑うように。







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