アイズ・ワイド・シャット





(8)


眼が醒めて、まず覚えたのは喉の乾きだった。
ついで、強い木の香りが鼻をつく。視線だけで見渡せば、目に入るのは木の天井に、木の柱、漆喰の白壁に、木のベッド・・・。
身体を動かそうとして、痛みに顔をしかめた。包帯の巻かれた左肩が熱い。どうやら、夢の出来事と云うわけではなさそうだ。

「気がついたのね」

やはり木でできたドアを開けて、入ってきたのは、一人の少女。
雪のように白い肌と、深い藍色の光沢を持つ黒髪。その隙間からは尖った角が2本伸びていて、彼女が人間ではない事を示していた。髪と同じ色の瞳は大きく、けれど常に眇められた眼差しのために、歳相応の愛らしさよりも、クールさの方が際立っている。
「レイ・・・ラ・・・?」
云いながら、そんなはずはない、と思い返した。
だって、目の前にいる、彼女は─
「まだ少し熱があるみたいね」
目の前にいる少女はすらりとした腕を伸ばして、手の甲を清麿の額に当てた。
「レイラ・・・じゃない、のか?」
彼女は微かに微笑む。
「あなたの事は、レイラから聞いてるわ」
それではやはり、この少女は違うのだ。面影も仕草もそっくりだが、16、7歳に見える彼女が、あの小さな少女であるはずはない。

「私はエイダ。レイラの血縁みたいなものよ」

「・・・血縁・・・?」
おうむ返しに、清麿が呟く。
エイダと名乗った少女は、湯冷ましの入った椀を清麿に渡すと、力の入らないその腕を支えながら飲ませた。ほんのりと甘みの加えられた湯冷ましは、乾いた喉にすぐ浸透した。
「今はお休みなさい。心配はいらないから」
エイダは、椀を戻すと、はだけていた毛布をかけ直す。
「でも俺・・・帰らなきゃ・・・」
「心配はいらないと云ったでしょう?大丈夫、ちゃんと帰れるわ」
「でも・・・」

きっとあいつ・・・心配してる・・・

なおも云い募ろうとする清麿の意識は、再び混濁する闇の中に消えた。






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