アイズ・ワイド・シャット





(15)


「・・・・麿・・・・・・清麿・・・清麿!!!」


眼を開けると、金色の髪が視界一杯にあった。
片膝をついている自分の首に、幼子がしがみついている。その状況がすぐには理解できず、清麿は問い掛けた。
「・・・なに泣いてんだ、ガッシュ・・・・」
するとガッシュは、涙でぐちゃぐちゃになった顔を勢いよく上げた。
「き・・・っきよまろ、ケガ、して、わた、私は、私は・・・ッ」
パニックになっているガッシュの言葉は、途中で途切れる。訝しげに見返すと、ガッシュは小さな手のひらで、清麿の頬に触れてきた。
「なぜ・・・泣いておるのだ・・・?」
「・・・え?・・・」
自分の指で頬に触れる。そこは、確かに涙で濡れていた。
茫然と濡れた指先を見詰める清麿の耳に、ガッシュの声が飛び込む。
「傷が痛むのか?どこが痛いのだ?清麿、きよまろ・・・」

わからない。なぜ泣いているのか

どこも痛くはない。なのに

「大丈夫だからの、もう泣くでない、清麿・・・」

その時、確かに心のどこかがひどく痛んだ。

「・・・ガッシュ・・・ッ!!」


清麿は、小さな身体を力一杯かき抱く。

子供のように、泣きじゃくりながら。












■Epilogue


清麿は、その白い羽根を不思議そうに眺めた。
(・・・なんで俺、こんなの取っておいてんだ?)
付け根部分から羽毛にかけて、焼け焦げたような痕のあるそれは、確かに覚えのあるものだ。─だが。

その羽根を、くるくると回しながら、記憶の隅を探る。
「きよまろ・・・まだ寝ぬのか?」
背後のベッドから聞こえた、少し寝惚けた声に、清麿は振り返った。
「すまない、起こしちまったな」
「それは良いのだが・・・お主もそろそろ寝た方が・・・」
回らない舌でムニャムニャとそう云うや否や、小さな頭はこてんと枕に沈んだ。
明らかな子どもに子ども扱いされているという事実に、清麿は思わず笑みを零す。

─最初はとても悔しかったのだ。

いつからだろう?悔しさを感じなくなったのは。

その時、奇妙な感覚に囚われた。
(・・・なんか、前にも似たようなこと、考えたような・・・)
そんな奇妙な既視感はしかし一瞬の事で、次の瞬間には、何を奇妙に感じたのか、それも曖昧になった。
清麿は机に向き直ると、バルカンの中に絆創膏をいくつか入れる。
─そして、あの白い羽根も。

「さて・・・と、俺も寝るか」

背伸びをして立ち上がると、ライトを消して、幼子の隣にもぐりこんだ。





戦いの終りが、近づいていた。








END

あとがき

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