アイズ・ワイド・シャット
(7) 空が落ちてくる。 熱に浮かされる時、眠りはいつも悪夢と連れ立ってやってきた。 空を支える巨人が逃げ、以来小さな自分が代わりに支えていた。見慣れた部屋の天井ですら、眼を閉じれば在り得ない質量となって襲い掛かってくる。 『高熱による知覚野の認識異常』などと大脳生理学的に分析する自分は、少し離れたところでとっくに踏み潰され、屍を晒しているのだろう。 そう、自分はとうに死んでいたのだ。 身体だけは生きていても、心は既に乾ききり、無数のひび割れが走っている。 末端からゆるやかに壊死を始めながら、あたりまえの痛みすら感じられなくなっていた。 ガッシュに、出会う前までは。 『危ない!もっと下がれ、ガッシュ!』 心に浮かんだのは、小さいけれど力強い、金色の光。 ─最初はとても悔しかった。 それが、いつからだろう?悔しさを感じなくなったのは。
光を探して彷徨う指先が、不意に、温かい何かに触れた。 (なんだ、そこにいたのか) 甘えるように頬擦りすると、なぜだかそれはびくりと揺れた。
そのイメージは清麿をひどく安心させて。 |