アイズ・ワイド・シャット





(7)


空が落ちてくる。
熱に浮かされる時、眠りはいつも悪夢と連れ立ってやってきた。
空を支える巨人が逃げ、以来小さな自分が代わりに支えていた。見慣れた部屋の天井ですら、眼を閉じれば在り得ない質量となって襲い掛かってくる。
『高熱による知覚野の認識異常』などと大脳生理学的に分析する自分は、少し離れたところでとっくに踏み潰され、屍を晒しているのだろう。
そう、自分はとうに死んでいたのだ。
身体だけは生きていても、心は既に乾ききり、無数のひび割れが走っている。
末端からゆるやかに壊死を始めながら、あたりまえの痛みすら感じられなくなっていた。

ガッシュに、出会う前までは。

『危ない!もっと下がれ、ガッシュ!』
『私に構うな清麿!お主こそ下がっておれ!!』

心に浮かんだのは、小さいけれど力強い、金色の光。

─最初はとても悔しかった。
小さい癖に、いつも自分を護って前に立つから。
その小さな背中にかばわれる自分が、まるでもっと小さな子供になったようで。
だから悔しく、反発もした。

それが、いつからだろう?悔しさを感じなくなったのは。
自分の方が小さくなったような錯覚は、相変わらず感じる。けれどそこに伴うのは決して不快な感情ではなく、むしろ─


「ガッ・・・・シュ・・・・」

光を探して彷徨う指先が、不意に、温かい何かに触れた。
無意識にそれを引き寄せ、力のこもらない両手で包む。それは温かく、力強い。

(なんだ、そこにいたのか)

甘えるように頬擦りすると、なぜだかそれはびくりと揺れた。
大きな手のひらを、不思議とは思わない。だって本当の自分はとても小さくて、ガッシュはずっと大きいのだから。


ちいさなちいさな子供になって、金色の光に包まれている─

そのイメージは清麿をひどく安心させて。
いつしか重苦しい悪夢は消えていた。





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