アイズ・ワイド・シャット





(12)

あの戦いから、10年が経っているとレイラは云った。
「10・・・年・・・」
清麿は、その重さを噛み締めるように呟く。
鳥型の魔物の子についてレイラが云った事に嘘はなく、その魔物は確かに空間を捩じ曲げて移動する力を持っていた。ただ違ったのは、最後に発動した呪文で起こったのが、それまでと同じ空間移動ではなく、時空間移動だったということ。
その力によって、清麿は10年後の魔界に飛ばされた─
「よく・・・わかったな。俺が10年前から来たって」
信じられない思いで、清麿は訊いた。いくら当時と変わらない姿をしているとは云え、主観的には10年の月日が流れているのだ。清麿が初めてレイラを見て思ったように、よく似た他人だと思うのが普通だろう。
「それは、ある人が教えてくれていたから」
「ある人?」
清麿は問い返したが、それ以上答えてくれる気はないようだった。
「・・・それに、どうして『エイダ』なんて」
仕方なく別の事を訊ねると、レイラは清麿を見据えて、云った。
「その答えは、もう出てるんじゃなくて?」
清麿は頷き、眼を閉じた。
王を決める戦いから、10年が経過している。
と云うことは、今ここで、戦いの結末を知る事だって出来るのだ。レイラが本当の名前を名乗らなかったのも、当然思い当たるその事実から、清麿を遠ざけようとしたからに他ならない。
「誰が王になったか、知りたい?」
レイラの問いに、静かに首を振る。
目を開けると、レイラはわずかに微笑んでいた。
「そう、それでいいわ、清麿。あなたはもうすぐ元いた世界に戻る。あなたがここに飛ばされるきっかけになった、その時間にね。そうすれば、ここで起こった出来事は、戻ったあなたにとっては夢みたいなもの。気を失っていた、ほんの一瞬の間に見た夢。─でもね」
レイラは一旦言葉を切って、清麿の眼を覗き込んだ。
「矛盾して聞こえるかも知れないけれど、たとえ夢の中とは云え、戦いの行く末を知ってしまうという事は、あなたたちのこれからの戦いに、どんな影響を及ぼすかわからないの。誰だってこの先がどうなるか、何ひとつ判らないからこそ、希望を失わずにいられるものでしょう?確定した未来なんて、本当はどこにも無いのだから」
レイラの言葉に、清麿は深く頷いた。
いつ終わるとも知れない、先の見えない戦い。その結末を知る事は誰にもできない。
出来るのはただ、選ぶ事だけ。ここで立ち止まるか、戦うか。
いつだってそうして、大切なものの隣で戦う事を選んできたのだ。

清麿は、金色の子供に思いを馳せる。
10年という年月─
お前にとっては、どんな時間だったんだ?








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