アイズ・ワイド・シャット





(10)


「清麿、着てるもの脱いで」
「・・・は?」

少女の家に滞在して4日目、相変わらずの据わった目付きでエイダが云った。
「傷も完全に塞がった事だし、お風呂に入ってらっしゃい。その間に洗濯しておくから」
云うや否や、エイダは手早く上着を脱がしにかかる。清麿が着ていた制服のシャツはボロボロで、修復術をもってしても繕うには少し時間がかかるらしい。今着ているのは、目覚めた時に既に着せられていたものだ。綿に良く似た素材のシャツはかなり大きめで、決して小柄ではない清麿ですら、膝頭まで隠れるほど長い。
そして、その下につけているのは下着のみ。
「ま、ままま待ったエイダ!脱ぐ!脱ぐからちょっと待てー!!」
「待てない。本当にもう、男の子ってのは・・・」
丸首のシャツを肩口まで露わになるほど引っ張りながら、読めない表情のまま、ぶつぶつと零す。それはまぁ、清麿自身も何となく思ってはいたが。
「え・・・っと、下、も?」
恐る恐る訊ねると、エイダはギッと眼を吊り上げた。
「『ソレ』を洗わなきゃ綺麗にした事にならないでしょ!さぁとっとと脱ぎなさい!!」
「ギャ───!せめて風呂場で着替えさせてくれ────ッッ!!」



エイダの猛攻を何とかかわし、清麿は教えられた風呂場に駆け込んだ。
(・・・やっぱ、女の子には気になるモンなんだろうか・・・)
袖口を鼻先まで引っ張り上げる。正直それほどとは思わないが、まあ確かに少々汗臭いのは事実だ。母親の華といい、どうも女性にとってこの手の不潔さは相当我慢のならないものらしい。
その時、清麿の胸がツキンと痛んだ。
(心配・・・してるだろうな・・・)
魔界に来て4日と云うことは、当然人間界でも同じだけの時間が流れている事になる。突然消えてしまった自分のことを、華や皆はきっと心配しているだろう。
ガッシュはどうしているだろうか。周りが納得の行く説明を、あの子供が出来ているとは思えない。何より、自分の無事すら教えてやれないことが、清麿の胸を苛んだ。
清麿の姿を探して泣いてはいないだろうか。パートナーを護れなかったと、自分を責めてはいないだろうか・・・。
清麿はぶるっと頭を振った。
考えていても仕方が無い。今は、心配はいらないというエイダの言葉を信じるしかないのだから。

脱いだシャツを足元のかごに入れようとして、そこに制服のズボンが入っているのに気が付いた。これから一緒に洗ってくれるつもりなのだろう。ポケットに何も入っていないか確認するため、ズボンを手に取る。
すると、折り畳んだ一枚の紙片が出てきた。あの戦いの朝、ポストから取ってきた絵ハガキだ。
清麿はしばらくそれを眺めていたが、
(そうだ。これ、エイダからレイラに渡してもらえないかな)
そう思いつき、ぱっと表情を明るくした。それは、とてもいい考えのように思えた。

喜ぶに違いない。きっと、2人とも。

清麿は、それを棚の上に置くと、少しだけ救われた思いで風呂場のカーテンを開けた。





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