<A.M. 10:35> (-7h25m)


きれいにラッピングされたキャンディをハヤテに渡すと、予想に反して固い表情のまま。てっきり喜んでくれるものだとばかり思っていたから、この反応は少々意外だった。
「えっと・・・そんなに欲しくなかったか?」
そう問えば、脳震盪を起こしそうなほどに大きく頭を振って意思表示する。と云うことは、嬉しくないわけではないのだろうか。しかし相変わらずキャンディを手にしたまま固まっている姿を見ていると、もちろん自分自身も落ち込まないではなかったが、それ以上になんだか申し訳ない事をしたような気分になる。
(参ったな・・・)
ただ喜ばせたかっただけなのに、と嘆息しかけると、不意にハヤテが袖を掴んだ。
「って・・・うわ!?」
そのままぐいと引っ張られてつんのめりそうになる。危ういところで踏みとどまった虎鉄に、追い討ちをかけるようにハヤテが飛びついた。
「な・・・・ななな何を綾崎!?」
いわゆる「首っ玉に噛り付く」という表現そのものの状況に、虎鉄は本日何度目か判らない動揺を露わにする。すぐ近くにあるちいさな頭を押しやる訳にもいかず、ただあわあわと両手を空に泳がせた、その時。

髪が揺れて

瞳が覗いた。

「あらあらかわいらしいわねぇ」
「ほんと、感激屋さんねぇ」

さざめく声にはたと周囲を見遣れば、飴屋の店主も道行く人も皆、目を細めて虎鉄に抱きつくハヤテを見ていた。傍から見れば、"彼氏からのプレゼントに感激して抱きつく少女"といったところか。
けれど、その表情は。
「・・・綾崎、わかったから。あっちで休もうか。な?」


ハヤテの手を引いて、手近なベンチを探す。が、生憎どこも先客がいた為、思わぬ遠くまで歩く羽目になった。
その間、ハヤテはずっと俯いて手の中のキャンディを見ていた。
虎鉄も、終始無言だった。




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