<P.M. 13:45> (-4h15m)



黒服たちを撒いてしまうと、気が付けば昼も大分過ぎていた。途中で食べた飴の糖分が効いているとは云え、やはり腹は空いていたので、売店(カフェなどという洒落たものではない)の店先に置かれたテーブルを陣取って、2人してサンドイッチをつまむ。
「悪いな、大したものじゃなくて」
もう少し早い時間ならば色々種類もあったのだろうが、あらかた売れてしまった後で、あまり選択の余地も無く買ったものだ。少しぱさついたサンドイッチをコーヒーで流し込みながら詫びると、ハヤテはぶんぶんと首を振った。充分に美味しいということを伝えるように、ひと口ふた口とサンドイッチをぱくついて見せる。その懸命な様子に、虎鉄は目を細めた。
「ああわかったから、そんな焦らなくていい。喉が詰まるぞ」
慌ててミルクティーを飲むハヤテを見て、どうしてこの子が愛されなかったのかと、改めて思う。
・・・いや、愛されなかった訳ではないのだろうか。確かに、常軌を逸した親ではあったらしいが、少なくとも虐待の類の報告は無かった。まあ、ネグレクトも立派な虐待と云えばそれまでだが、それにしても。
どんな目に遭っても親の生活費を工面するために、当の親によって売られるその日まで、働き通しだったというその手を見る。器用さを示すような、しなやかで形の良い指。きちんと切り揃えられた爪。─微かに白く痕を残す、幾筋もの古い傷跡。
不意にいとおしさが込み上げて、その手を取った。
目を丸くして、小首を傾げるその仕草も、何もかもがいとおしい。
けれど、『守る』とはもう云わない。

(僕、ほんとは甘いものってそんなに好きじゃないんです)

ただ黙って守られることよりも、打ち払い、切り進む事を選ぶ。この手はそういう手だと、解っていたから。
それでも、魔法が解けた後で、少しでもそれを覚えていてほしかった。
ただ守られるだけで良かった自分の事を。他のどんな子供とも違わない当り前の権利を、自分も確かに持っていたという事を。
だから、言葉にはせずにただ、指先に口づけた。




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