<P.M. 15:00> (-3h00m)



どうやら今日は絶好の散歩日和という奴らしい。
暑くもなく寒くもなく、心地よい風が頬を撫でる中を歩いていると、同じようにのんびりと、どこへ行くともなく(まぁ実際は目的があるのだろうが)歩く人々とすれ違った。最初こそ、ステロタイプなメイド服に注目する視線もあったが、ハヤテの様子があまりにも自然なためか長く続きはしなかった。非日常が日常の中に溶け込むスピードは意外に速い。
そんな風にのんびりと歩いていると、次第に眠気を覚えてきて、虎鉄は隣のハヤテに目を遣った。見ればやはり、少しだけ眠たげな表情。
そういえば、とナギの話を思い返す。もしかして、昨夜は一睡もしていないのではないだろうか。
「綾崎、眠いか?」
問うと、聡い少年にしては緩慢な動作で、微かにふるると首を振る。それを見た虎鉄は、
(あー・・・相当キてるなこれは)
あたりをぐるりと見回して、不審な気配がないのを確かめて散歩道を抜ける。きれいに刈り揃えられた芝生ではごろりと寝そべる人々やレジャーシートを広げる人たちがいて、なかなか気持ちよさそうだ。
一応ハンカチを敷いて、ハヤテを座らせる。隣に腰を下ろすと、ハヤテはもたれるのに丁度良い柱を見つけたようで、こてんと頭を預けた次の瞬間には、もう心地良い寝息を立て始めた。
「・・・って。早いな、おい」
聞く者もなくツッコんで、その寝顔を見詰める。
安心しきった子供のような、その寝顔に既視感を覚え、あれはいつだったろうかと思う。けれど、掴もうとしたその先には何もなく、乾いた風に吹かれているうちに、そもそも何を掴もうとしていたのか、それすら判らなくなった。
無防備な寝顔を眺めながら、ふと思う。
まさしく、これこそが、実験の目的だったのだろう、と。
拒絶も嫌悪もなく、ただ自分の庇護だけを、盲目的に受け入れてくれる存在を作り上げること─
何も信じるもののない老王が、鉄壁の城砦の奥で願った、愚かしいまでにちっぽけな望み。
(だったら・・・残念だったな、三千院翁)
一体、誰を目的にしたものかは知らないが、ハヤテは盲目的に従いなどしなかった。夢と現の狭間でも、自分で戦う事を選んだ。
(だから、俺は惚れたんだ)
「・・・ぅん・・・」
心の中の想いに呼応するように、ハヤテが身動ぎする。その事に奇妙な満足感を覚えながら、虎鉄も次第に眠りに落ちていった。




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