<A.M. 8:00> (+76h00m)



3日後、月曜日。
教室へ向かう途中の踊り場で、意外な人物に声をかけられて虎鉄は振り返った。
「よう、綾崎」
「・・・おはようございます」
いつも通りの、微妙にしかめた顔つきさえ可愛いと思ってしまう自分は、きっと少しおかしいのだろう。沸いた頭でそんな事を思っていると、ハヤテは背中に回していた手を前に出した。手にした紙袋の中身は、見なくても判る。
「ああ、有難うな。わざわざ」
「いえ・・・こちらこそ・・・」
きれいにプレスした上着の入った紙袋を手渡しながら、もごもごと口ごもる少年の耳が、見る間に赤く染まって行く。
「・・・っもう、なんで・・・」
「?」
なんだか様子がおかしい。声をかけようとした虎鉄に、ハヤテは執事服のポケットから、もうひとつちいさな袋を取り出して、押し付けた。
「お・・・お礼ですッ!・・・『彼女』からの!」
「お、おい綾崎?!」
云うや否や、呼び止める間も与えず駆け出した。
虎鉄の手の中に、手作りのジェリービーンズを残して。






<A.M. 8:10> (+76h10m)


ハヤテは校舎裏まで来ると、壁にもたれて息を吐いた。
まだ、頬があつい。

誰もが、眼が醒めれば忘れると思っていた。三千院帝、本人でさえ。
けれど、夢の中のような感覚とは云え、ハヤテは覚えていた。

暴走する自分を止めてくれた、力強い誰かの腕のこと。
最初は父親かと思って、けれどそうではなかったこと。
飴をもらって、嬉しかったこと。同時に、たまらなく哀しくなったこと。


あの時、やはりこの人も『そう』なのだと思った。何かを施されるのは、差し出すものを期待された時だけだったから。だから、ためらいなく自分をあげた。
なのに。
あの人は、いらないと云った。
見返りなど関係ないと。
─ 好きだと
云った。


(ーーーーーーうわぁッ)


ハヤテは、耳を塞いでうずくまった。少し落ち着きかけた頬の火照りが、今度は動悸まで伴って余計に酷くなる。
こめかみの奥が、じくじくと疼く。

(あの人のせいで)

こんなにも、胸が痛い。

「・・・痛いよお・・・」

子供のように声を出すと、少しだけ楽になる気がした。
けれど、それを教えてくれたのが誰かを思い出して。
また、胸が痛んだ。

知らなければ今まで通り、何でもない顔で過ごせたのに。
─独りで、いられたのに。

 

そうして、膝を抱えてうずくまる。
知ってしまった温もりの遠さに、途方に暮れる迷子の瞳で。









END






あとがき:

ハーマイオニー愛が炸裂しました。


という訳で、無駄に長編です。スミマセン(なんとなく)。
タイトルは、柴田某先生の名作SFコミックより拝借。検索で飛んでこられた方、いらしたらスミマセン。中身は全く関係ないです。

さて、例によって、捏造甚だしいです。特に虎鉄。一人称が『俺』ですが、何となくこの人、素に戻るとガラ悪そうだなーと常々思っていたので、個人的な好みもあってべらんめぇ調に。温泉の時も、ウッカリかどうか判りませんが、オレ云うてましたしね。

あと、ハヤテも偽者でスミマセン。勝手に過去作ってスミマセン。
つか、こんな暗い(?)オチつけるはずじゃなかったんですが・・・。なんか、これしか収めようがなくて。

一番書きたかったのは、序盤のハヤテV.S.虎鉄。虎鉄はいつもハヤテにのされてますが、本気でやりあったらどっちが強いのかなーと。まあ、どちらもスペック的にはかなり時の運に左右されそうなので、今回は虎鉄に軍配を。とは云っても、ハヤテにはやっぱり勝てません。そこはそれ、惚れた弱みと云うもので。

何となく続き物っぽいですが、次のお話が連続してるかどうかは私にもわかりません。ただ、2人の関係はゆるやかに発展してる・・・といいな・・・と思いつつ、全く別世界なお話書いてたらスミマセン。(謝ってばっかだなぁ今回)

さて、ほとんど虎鉄視点という、我ながら大冒険なお話でしたが、いかがでしたでしょうか。もしもお気に召して頂けましたら幸いですv




| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
| 9  | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |  15 |

戻る