<A.M. 8:00> (+76h00m) 3日後、月曜日。 教室へ向かう途中の踊り場で、意外な人物に声をかけられて虎鉄は振り返った。 「よう、綾崎」 「・・・おはようございます」 いつも通りの、微妙にしかめた顔つきさえ可愛いと思ってしまう自分は、きっと少しおかしいのだろう。沸いた頭でそんな事を思っていると、ハヤテは背中に回していた手を前に出した。手にした紙袋の中身は、見なくても判る。 「ああ、有難うな。わざわざ」 「いえ・・・こちらこそ・・・」 きれいにプレスした上着の入った紙袋を手渡しながら、もごもごと口ごもる少年の耳が、見る間に赤く染まって行く。 「・・・っもう、なんで・・・」 「?」 なんだか様子がおかしい。声をかけようとした虎鉄に、ハヤテは執事服のポケットから、もうひとつちいさな袋を取り出して、押し付けた。 「お・・・お礼ですッ!・・・『彼女』からの!」 「お、おい綾崎?!」 云うや否や、呼び止める間も与えず駆け出した。 虎鉄の手の中に、手作りのジェリービーンズを残して。 <A.M. 8:10> (+76h10m)
誰もが、眼が醒めれば忘れると思っていた。三千院帝、本人でさえ。 暴走する自分を止めてくれた、力強い誰かの腕のこと。
(あの人のせいで) こんなにも、胸が痛い。 「・・・痛いよお・・・」 子供のように声を出すと、少しだけ楽になる気がした。 知らなければ今まで通り、何でもない顔で過ごせたのに。
そうして、膝を抱えてうずくまる。 END
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