アイズ・ワイド・シャット





(13)

翌日、清麿はレイラに連れられて、あの洞窟の前まで来た。
清麿の主観では、ここをくぐって人間界に帰ったのはまだ最近の話だったが、洞窟の周囲にはあの時無かったツタがびっしりとつたい、流れた時間の長さを物語っていた。
レイラは、最後にあの羽根を確認して云った。
「それは絶対に手放さないでね。その羽根が無いと、人間界には戻れても、元の時間には戻れないから」
「ああ。本当にありがとう、レイラ」
「アルによろしく。・・・と云いたい所だけど、無理ね。これ、ありがとう」
レイラは、大切そうに絵ハガキを胸に押し抱いた。
絵ハガキは、結局レイラにあげる事にした。レイラは受け取れないと拒んだが、自分なら、戦いの最中に無くしたのだと納得するだろうと云って。
実際、無くなっているのはハガキだけではない。家の鍵や硬貨、上着だって森の中だ。一瞬前まであったものがなくなっているという事態ってどうなんだろう─と思ったが、レイラに云わせれば、そのあたりの矛盾は人間の記憶修正で辻褄が合うものらしいから、まあ大丈夫だろう。あまり深く考えない事にした。
「そうだ、最後にもう一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「これ。この、羽根のこと。これを持っていたのは・・・」
そう問い掛けると、レイラは耳許に近づいて囁きかけた。
「それは、あなた自身が確かめなさい」
清麿が訊きかえす間もなく、くすりと笑いかける。
「それじゃ私、行くわ。元気でね、清麿」
「あ、ああ。レイラも、元気でな」
最後に握手を交わし、レイラは森の中に消えて行った。
それを見届け、清麿は洞窟の入り口に向き直った。そのまま真っ直ぐに数歩進んだが、何を思ったか入り口の手前で立ち止まり、眼を閉じる。
そしてそのまま、声を上げた。

「出てこいよ。そこにいるんだろう?」

呼びかけに、応う者は無い。だが、清麿は眼を閉じたまま続けた。
「レイラとはどーいう関係なんだ?あの夜だって、レイラの近くにいたんだろ。それって偶然か?」
獣の凶牙から助け出されたあの夜。高熱にうなされる清麿の傍に、ずっとついていてくれていたのはレイラではなかった。夢の中で握った、あの大きな手も。
清麿は、息を吸いこんで、云った。
「・・・レイラのことが、好きなのか・・・?」
その瞬間、背後でがさがさと盛大な葉擦れの音がした。と、同時に切羽詰った声が響く。

「き・・・っ清麿、それは違う!誤解だ!!」

清麿は、眼を閉じたままでそれを聞き、堪えきれず笑い出した。
「わかってるよ。冗談だ」
まだ笑いが収まらない清麿は、身体をくの字に折り曲げて懸命に堪える。
その反応を見て、背後からため息が聞こえた。

「清麿・・・ひどいのだ・・・」

それは間違いなく、一番大切な者の声だった。








NEXT?

| | | | | | |
| | | | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |